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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)537号 判決 1967年1月17日

上告人

斉藤正

上告人

斉藤直

右両名訴訟代理人

吉岡秀四郎

被上告人

東京小型自動車部品株式会社

右代表者

前川恒吉

被上告人

岡田輝彦

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人吉岡秀四郎の上告理由第一点について。

原判決が、被上告会社が、被上告人岡田から、上告人両名の承諾のもとに、本件土地の賃借権の譲渡を受けたと認定したものでないことは、原判示を通覧すれば明らかである。所論は原判決を正解しないことに出たものであつて、採用できない。

同第二、四点について。

上告理由第一点について説示したとおり、原判決は、被上告会社が被上告人岡田から、上告人両名の承諾のもとに、本件土地の賃借権の譲渡を受けたと認定したものではない。所論はすべてこのことを正解しないことに出たものであつて、採用できない。

同第三点について。

被上告人岡田は、昭和三五年四月二三日、本件借地上の建物および賃借権を被上告会社に対して譲渡したものであるが、右譲渡に先立つ二、三カ月前である昭和三五年一、二月頃、上告人両名との間の原判示調停条項に基づき、上告人両名の実父で、両名と同居し、賃借権の譲渡についての諾否の権限を有していた斉藤芳之助に対し、上告人斉藤直の同席しているところで、被上告会社に賃借権を譲渡したい旨申し出て、その承諾を求め、ついで、同年三月三〇日被上告会社の代表者前川恒吉を同道して上告人両名方を訪ね、右斉藤芳之助や上告人斉藤直に前川恒吉を紹介したこと、被上告会社は、調停条項にいう第三国人でもなければ、第三国人の資本によつて経営されている会社でもないことはもとより、社会的もしくは信用上賃借人として不適格者とは認められないことは原審の認定したところである。そうとすれば、「賃借権を譲渡するときには予め上告人両名の承諾を求めること、上告人両名は、賃借権の譲受人が第三国人、または社会的もしくは信用上賃借人として不適格者でない限り、無償で譲渡を認むべきこと」との調停条項七項に基づき、上告人両名は、上告人岡田の申入により、その頃、賃借権の譲渡について承諾をなすべき義務を負担したものと解すべきである。そして、上告人両名が諾否を明らかにしない間に賃借権の護渡がなされたときは、事後、承諾の余地がないもの(すなわち、いつたん発生した承諾義務は消滅する)とする趣旨をも前記調停条項が包含しているとの点は、原審において、主張判断のないところであるから、上告人両名に承諾義務があることには変りはない。

このように上告人両名が賃借権の譲渡について承諾をなすべき義務があり、被上告人岡田が調停条項の合意に基づき適法に右承諾を求める手続をとつたのに、上告人両名が何らの理由もなく承諾をしないという前記本件のような場合には、上告人両名が現実に賃借権の譲渡を承諾しなくとも、譲受人たる被上告会社は賃借権の譲受を上告人両名に対抗しうるものといわなければならない。けだし、賃貸人が賃借人に対し、賃借権の譲渡について承諾をなすべき義務を負う場合でも、現実に承諾の意思表示がないまま賃借権の譲渡がなされたときは、民法六一二条にいう賃借権の無断譲渡といわざるをえないとしても、このような譲渡は賃貸人に対する背信行為ということはできないから、賃貸人は同条により賃貸契約を解除することができず、このような場合には、継続的な契約関係である賃貸借の特質上、契約当事者間の法律関係の安定および衡平を考慮して、賃借権譲受人は、承諾があつたと同様に、賃借権の譲受を賃貸人に対抗することができると解するのを相当とするからである。そうすれば、結局、叙上と同趣旨に出た原判決は正当であつて、原判決に所論の違法はない。所論は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

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